大学を卒業し社会人としての第一歩を踏み出したばかりの二十三歳の男性Aさんの事例を紹介します。Aさんが自分の異変に気づいたのは就職活動の最中でした。鏡で髪型をセットしているときに前髪のボリュームが以前よりも減り額の生え際が後退しているように感じたのです。最初はストレスや生活習慣の乱れだろうと高を括っていましたが社会人になり生活が落ち着いても状況は改善するどころか抜け毛の量は増える一方でした。友人に冗談交じりでデコ広くなったと言われたことが決定打となり彼はAGA専門クリニックの門を叩く決意をしました。これは若年性AGAと呼ばれる典型的なケースであり進行スピードが早いのが特徴です。初診時のAさんの頭皮の状態はハミルトン・ノーウッド分類でいうところのステージⅡに相当しM字部分の後退が顕著に見られました。マイクロスコープで観察すると生え際付近の毛髪は軟毛化しておりヘアサイクルが極端に短くなっていることが確認されました。二十代前半という若さでの発症は遺伝的要因が強いことが多くAさんの父親も祖父も薄毛であることから遺伝性のAGAであるとの診断が下されました。若い患者の場合細胞の活性が高いため薬への反応が良い反面放置すれば急速に進行してしまうリスクも孕んでいます。医師は早期治療の重要性を説明しフィナステリドによる進行抑制とミノキシジル内服による発毛促進の併用療法を提案しました。治療を開始して最初の二ヶ月間Aさんは初期脱毛に悩まされました。洗髪のたびに手ごわいほどの髪が抜け落ちるのを見て治療を止めるべきか真剣に悩んだそうです。しかしこれは新しい髪が生えるための準備期間であるという医師の言葉を信じ粘り強く服薬を続けました。変化が訪れたのは治療開始から四ヶ月目のことでした。生え際の後退した部分にうっすらとした産毛が生えてきているのを肉眼で確認できたのです。それはまだ弱々しい毛でしたが彼にとっては希望の光でした。この成功体験がモチベーションとなり彼は生活習慣の改善にも積極的に取り組むようになりました。睡眠時間を確保し脂っこい食事を控えるなど薬の効果を後押しする努力を重ねました。半年が経過する頃には産毛が太く黒い硬毛へと成長しおでこの広さが明らかに狭くなりました。周囲からも髪型変えたとか若々しくなったと言われるようになりAさんの自信は大きく回復しました。仕事でのプレゼンテーションや対人関係においても堂々と振る舞えるようになったと語っています。一年後の定期検診では治療前とは見違えるほどの毛量が確認され生え際のラインもしっかりと形成されていました。二十代という若さゆえに毛母細胞のポテンシャルが高く治療への反応が劇的だった好例と言えるでしょう。