筋肉は裏切らない髪との関係に悩んだ日々

ベンチプレスの重りを上げるたびに、鏡に映る自分の姿を確認する。筋肉がついてきた実感は嬉しいけれど、同時に、汗で濡れた額の生え際が少し後退したような気がして、胸がざわつく。筋トレを始めてから、もう何年も経つ。最初はただ強くなりたくて、理想の体を目指して夢中になっていた。でも、いつからか「筋トレするとハゲる」という噂が耳に入るようになり、トレーニング仲間の中にも実際に薄毛を気にしている人がいるのを見て、他人事とは思えなくなった。プロテインやクレアチンなどのサプリメントが髪に悪い影響を与えるのでは、と心配になって調べたこともある。幸い、それらが直接薄毛を引き起こすという根拠は見つからなかったけれど、一度気になりだすと、シャンプーの時の抜け毛一本一本に敏感になってしまう。追い込みすぎてストレスが溜まっているせいだろうか、それともやはりホルモンバランスが影響しているのだろうか。そんなことを考え出すと、トレーニングへの集中力も削がれてしまう気がした。ある時、ベテランのトレーナーに相談してみた。「筋肉は努力すれば応えてくれるけど、髪はそうもいかないみたいで…」と弱音を吐くと、彼は笑ってこう言った。「筋肉も髪も、体の一部だろ?偏った情報に振り回されず、体全体を健康に保つことを考えればいいんだよ。バランスの取れた食事、十分な睡眠、そして何より、楽しんでトレーニングすること。それが一番だ」。その言葉に、少しだけ霧が晴れたような気がした。確かに、僕は髪のことばかり気にして、トレーニングの本来の目的や、健康的な生活習慣という基本を見失いかけていたのかもしれない。もちろん、遺伝的な要因もあるだろうし、将来どうなるかは分からない。でも、今できることは、体と心の声に耳を傾け、バランスを大切にしながら、これからも自分なりのトレーニングを続けていくこと。筋肉は、そしてきっと髪も、そんな正直な努力に応えてくれるはずだと、今は信じている。