甲状腺機能の異常（低下症または亢進症）が原因で薄毛や脱毛が起きている場合、その治療の基本は、原因となっている甲状腺疾患そのものを治療することにあります。薄毛はあくまで甲状腺疾患の一症状として現れているため、大元の病気をコントロールすることが、結果的に髪の状態を改善させる最も重要なアプローチとなるのです。甲状腺機能低下症の場合は、不足している甲状腺ホルモンを内服薬（レボチロキシンナトリウムなど）で補充する治療が一般的です。これにより、低下していた代謝が正常化し、毛母細胞の活動も徐々に回復していくことが期待されます。甲状腺機能亢進症（バセドウ病など）の場合は、甲状腺ホルモンの合成を抑える薬（抗甲状腺薬）による治療が中心となります。場合によっては、放射性ヨウ素内用療法や手術が選択されることもあります。これらの治療によって甲状腺機能が安定した状態になれば、乱れていたヘアサイクルも徐々に正常化し、抜け毛が減り、新しい髪が生えてくることが期待できます。ただし、髪の毛にはヘアサイクルがあるため、甲状腺機能が正常化してから髪の状態が改善するまでには、数ヶ月から半年、あるいはそれ以上の時間がかかることも珍しくありません。焦らず、根気強く治療を続けることが大切です。甲状腺疾患の治療中に、ミノキシジル外用薬などの一般的な薄毛治療薬を併用することについては、必ず主治医（内科・内分泌科医）と皮膚科医に相談が必要です。自己判断での併用は避け、まずは甲状腺疾患の治療に専念し、その効果を見守ることが基本となります。適切な治療を受ければ、甲状腺疾患による薄毛は改善する可能性が高いということを覚えておきましょう。