五十代の自営業Dさんは長年薄毛を放置し続けた結果ハミルトン・ノーウッド分類でステージⅥに近い重度のAGAへと進行していました。前頭部から頭頂部にかけての髪はほとんど失われ側頭部と後頭部にのみ髪が残っているいわゆる波平さん状態でした。これまでカツラや増毛も検討しましたがメンテナンスの手間や不自然さを嫌いスキンヘッドにするしかないと半ば諦めていました。しかし娘の結婚式を控えて少しでも若々しい姿でバージンロードを歩きたいという強い思いからダメ元でAGA専門クリニックを受診しました。多くのクリニックではここまでの進行レベルになると自毛植毛を勧められることが多いのですがDさんは外科手術には抵抗がありあくまで薬での治療を希望しました。医師も正直なところ完全な回復は難しいかもしれないと前置きした上で残存している毛根の可能性に賭ける「集中治療プログラム」を提案しました。内容はデュタステリドの内服高濃度ミノキシジルの内服および外用そして頭皮への成長因子注入療法を短期間に集中的に行うというフルコースでした。毛根が完全に死滅して皮膚化してしまっている部分は蘇りませんが休止期で眠っているだけの毛根があれば復活のチャンスはあります。治療開始から半年間はDさんにとって忍耐の日々でした。重症例の場合改善のスピードは緩やかで目に見える変化が現れるまでに時間がかかります。それでもDさんは毎日薬を飲み月に一度の注入治療に通い続けました。変化が現れ始めたのは八ヶ月目を過ぎた頃でした。ツルツルだと思っていた頭頂部に産毛が広範囲にわたって生えてきたのです。それは砂漠に緑が芽吹くような奇跡的な光景でした。医師も驚くほどの生命力がDさんの頭皮には眠っていたのです。一年後Dさんの頭部は劇的に変化しました。かつてのフサフサの状態とまではいきませんが地肌が露出していた部分全体が短いながらも黒い髪で覆われ見た目の年齢は十歳以上若返りました。完全に禿げ上がっていた状態から薄毛のおじさんレベルまで回復したのです。これだけでもDさんにとっては十分すぎる成果でした。娘の結婚式にはご自身の髪をセットして出席することができ家族全員がその変化に感動したそうです。Dさんは「もう手遅れだと思っていたが諦めなくて本当によかった」と涙ながらに語りました。Dさんの症例は重度のAGAであっても決して治療不可能ではないことを示しています。もちろん全ての人が同じように回復するわけではありませんが毛根が存在する限り医学の力で覚醒させることは可能です。進行しているからといって自己判断で限界を決めてしまうのではなく専門医の診断を仰ぐことの重要性を教えてくれます。Dさんは現在も維持療法を続けており生えてきた髪を大切に育てています。何歳からでもどの段階からでもスタートを切るのに遅すぎることはないのです。