「母親も祖母も、年を重ねてから髪が薄くなっていたから、自分もいずれは…」遺伝的な要因を自覚している女性にとって、加齢は避けられない不安要素かもしれません。しかし、遺伝という「素因」を持っていたとしても、それが「薄毛」という形で表面化するには、多くの場合、何らかの「引き金」が存在します。そして、女性の薄毛において、その最も大きな引き金となるのが、ライフステージを通じて常にゆらぎ続ける「ホルモンバランスの変化」なのです。女性の髪の健康は、女性ホルモンである「エストロゲン」によって、力強く守られています。エストロゲンには、髪の成長期を長く保ち、ハリやコシのある豊かな髪を育む働きがあります。遺伝的に男性ホルモンの影響を受けやすい体質(FAGAの素因)を持っていたとしても、このエストロゲンが十分に分泌されている間は、その影響は抑えられ、薄毛が顕在化することはあまりありません。しかし、この守護神であるエストロゲンの分泌量は、一生を通じて一定ではありません。女性の人生には、ホルモンバランスが大きく変動する、いくつかの転機が訪れます。その代表的なものが「妊娠・出産」と「更年期」です。妊娠中は、エストロゲンの分泌量がピークに達するため、髪はむしろ豊かになる傾向があります。しかし、出産後にはその分泌量が急激に減少するため、髪が一斉に休止期に入り、大量の抜け毛(分娩後脱毛症)が起こります。これは一時的なものですが、これをきっかけに、もともと持っていた薄毛の素因が目覚めてしまうことがあります。そして、より深刻な影響を与えるのが「更年期」です。40代後半から50代にかけて、卵巣の機能が低下し、エストロゲンの分泌量は劇的に減少します。髪を守るエストロゲンの力が弱まると、体内で相対的に男性ホルモンの影響が強まり、隠れていたFAGAのスイッチが入ってしまうのです。多くの女性が、更年期以降に分け目の広がりや髪のボリュームダウンを実感し始めるのは、このためです。また、これらライフステージの変化だけでなく、過度なダイエットや強いストレス、睡眠不足なども、ホルモンバランスを容易に乱し、薄毛の引き金となり得ます。遺伝は、いわば銃に込められた弾丸のようなもの。そして、ホルモンバランスの乱れは、その引き金を引く指なのです。